2026.8.17
仕組みが整うと、気持ちが動く。
機器を届けるだけでは、介護DXは動かない。仕組みと気持ちの「あいだ」を、誰が設計するか。

この記事はこんな方向けです
- 介護施設に商品・サービスを届けたい一般企業
- 介護DXパートナー候補として連携を検討している企業
- 介護施設の経営層・法人本部のDX推進担当者
- 自治体・支援機関の担当者
はじめに
有料老人ホーム「エクセルシオール秦野」は、介護DXの取り組みを3階の一部フロアから始めました。それが半年もしないうちに全床導入へ向けた検討がはじまり、いまでは法人の他拠点にも介護DXへの意識が広がっています。──何が、この広がりを生んだのでしょうか
秦野での取り組みを、三人に振り返ってもらいました。今回の参加者は、介護施設におけるDX支援を推進するBCC ヘルスケアビジネスカンパニーの青木、大阪拠点で介護DX事業に携わる阿部、そして業務改善・運用定着を担うロボタスネットの代表である逢坂氏です。ロボタスネット株式会社は令和7年からBCCグループに参画し、介護施設への運用定着支援を中心に、ヘルスケア事業を共に推進するグループ企業です。
三人の話には、介護DXが「仕組み」だけでは動かないこと、そして「気持ち」だけでも動かないこと、その両方がにじんで見えました。 介護DXの本質は、機器選定でも補助金でもなく、仕組みと気持ちを接続する設計そのものにある、そんなテーマの鼎談となりました。
プロフィール

青木 佑太
BCC株式会社 ヘルスケアカンパニー
第2ヘルスケア支援グループ マネージャー
介護施設におけるDX導入支援に携わり、施設ごとの課題整理から、ソリューション提案、デモ調整、導入前後の支援までを担当。機器導入だけでなく、介護施設で使われる状態まで見据えた伴走を重視している。
“何を入れるか” より先に、“なぜ必要か” “どうすれば使われるか” を整理することが、介護DXの出発点だと考えています。

阿部 正織
BCC株式会社 ヘルスケアカンパニー
第1ヘルスケア支援グループ マネージャー
大阪拠点で介護DX事業に携わり、補助金活用の設計、介護施設ごとの制度適用、グループ全体の座組みの構築を担当。制度と現場運用の両側を接続する視点で、介護DX案件の全体設計に関わる。
全体をどう設計するかが、いちばん大事だと思っています。それがカンパニーとしての、私たちの仕事です。

逢坂 大輔
ロボタスネット株式会社 代表取締役社長
大阪府介護生産性向上支援センター 業務アドバイザー/理学療法士/作業管理士
令和3年、ATCエイジレスセンターの介護ロボット相談窓口の頃から介護施設の生産性向上に関わる。多くの施設の相談を受け、「どこでつまずくのか」を熟知した業務改善・運用定着の専門家。令和7年、ロボタスネットのBCCグループ参画に伴い、グループ内で運用定着支援を担う。
操作説明よりも先に、“なぜ入れるのか” を共有する。そこが介護施設の気持ちを動かす、一番の入口だと思っています。
第1章
仕組みは、束ねなければ届かない
青木
介護DXって、機器選定・補助金・ネットワーク・運用支援が、全部別の会社の領域なんですよね。だから施設さんからすると「何を、どの順番で、誰に頼めばいいのか」がわからない。ここが最初の壁になる。
阿部
その通りで、しかも制度の使い方も施設さんごとに違うんです。同じ補助金でも、どの機器を対象にどう組み立てるかは施設さんの状況次第。だからBCCが施設さんの課題を先にうかがって、機器選定・補助金活用・通信環境・運用支援までの道筋を一緒に整理する。そこがないと、施設さんは自分たちだけで組み立てなきゃならなくなる。
青木
秦野さんの場合、夜間の見守りと排泄の状況把握が課題でした。だから眠りSCANとトイレDIARYを、3階に、この台数で──と、課題から逆算して設計しました。ネットワークも、フロアの物理的なつくりに合わせて、エレコムさんと組んで設計する。ここは技術がわかっていないと組めない部分なので、BCCが介護の話とITの話を両方できることが、施設さんの安心につながっているんじゃないかと思っています。
逢坂
土台がぐらついていると、どれだけスタッフの皆さんに寄り添っても「やっぱり使えないじゃないか」で終わってしまうんです。逆に、土台が整っていると、そこから先の話ができる。だから、BCCが仕組みの部分をきちんと押さえてくれている前提があるから、私は安心して「これは使えますよ」と言い切れる。
阿部
ちなみに逢坂さんは、大阪府介護生産性向上支援センターの業務アドバイザーで、令和3年のATCエイジレスセンターの介護ロボット相談窓口の頃から介護施設の生産性向上に関わってもらっています。ロボタスネットで本当に多くの施設の相談を受けているので、「どこでつまずくのか」を誰よりも知っていらっしゃる。その知見がグループの中にあるのは、私たちの大きな強みだと思っています。土台が整っていないと、感情は動かない、ということですね。

第2章
気持ちは、突然は変わらない
青木
一番印象に残っているのは、介護施設の空気が少しずつ変わっていったことなんです。補助金の申請期間中は、正直、不安のほうが強かった。「また新しいものが入る」「使いこなせるだろうか」って。
逢坂
それはどこの介護施設でもそうです。すでに手一杯のところに、新しい仕組みが入ってくる話ですから、最初は身構える。
青木
交付決定して、機器の範囲や通信環境、運用の流れが具体化してから、少しずつ見通しがついていった感じですね。そこにロボタスネットの導入前研修が入って、機器の使い方だけじゃなく「業務がどう変わるのか」「最初につまずきやすい点はどこか」を事前に共有できた。
逢坂
私が伝えているのは、操作説明よりも先に「なぜ入れるのか」なんです。「何のために」がスタッフの中でつながると、「じゃあ最初に慣れておこう」という気持ちが自然に出てくる。逆に「これを覚えなさい」と操作から入ると、たぶんそこで止まります。
阿部
そこが分かれ目なんですよね。大阪府の窓口でも同じで、うまく走り出す施設さんと、途中で止まる施設さんの違いは、「なぜ入れるのか」が導入前にスタッフの皆さんに共有されているかどうか、というのが大きい。そこを共有できる時間が、準備の段階に含まれているかどうかで、後の景色が変わる。
青木
秦野さんの場合、リーダー層の受け止めが変わって、「これなら使っていける」という空気がスタッフの皆さんにも広がっていった、という順番でした。介護テクノロジーの導入は壁が厚いとよく聞いていたので、正直、驚きました。ここまで気持ちが変わって、自分たちから「全床に広げたい」と言ってくれるのか、と。操作説明よりも先に、“なぜ入れるのか” を共有することの重要性が身に染みましたね。

第3章
仕組みと気持ちは、別々の話じゃない
逢坂
準備の質が、介護施設の受け止め方を変えます。「きちんと準備されたうえで始まる取り組みなんだ」と伝えられることが、支援の入口の温度をつくる。ここが不十分だと、私がどれだけ丁寧に研修しても、届き方が変わってしまうんです。
阿部
業界の慣行として、機器を売る会社、通信を整える会社、研修を提供する会社が、みんな別々に動くんですよね。ばらばらに動くと、施設さんはそれぞれの窓口に同じ説明を繰り返さなきゃならないし、「あちらではこう聞いたけど、こちらでは違う」という混乱も起きる。それが介護施設の疲弊につながる。
逢坂
束ねる仕組みがあると、私たちも「ここまでは青木さんに聞いてください」と言えるんです。それだけで介護施設の負担が減る。
青木
介護DXの本当のむずかしさは、機器の性能でも、補助金の複雑さでもなくて、こういう「あいだ」にあるんじゃないかと、この案件を通じて思うようになりました。仕組みの話と気持ちの話は、別々に語れるようで、じつは同じ話なんだと。
阿部
ここは、どこか一つの取り組みだけでは生まれない成果だと思います。課題整理、機器の選定、補助金の活用、ネットワーク整備、運用定着──それぞれの要素がつながって、初めて次の展開につながる。全体をどう設計するかが本当に大事で、それがBCCのヘルスケアとしての私たちの仕事だと思っています。仕組みと気持ちは、別々に語れるようで、実は同じ話なんです。

第4章
一緒に動く仲間が増えるほど、届く速度は上がる
青木
BCCはあくまで結節点なので、専門の会社さんと組めば組むほど、施設さんに提案できる選択肢が広がります。だから、介護施設向けの商品やサービスを持っている会社さんには、「BCCと組むと、どういうことができるようになるか」を知っておいていただきたくて。
逢坂
私自身、ロボタスネットがBCCグループに参画する前と参画した後で、自分の仕事がやりやすくなった実感があります。土台が整った状態で介護施設に呼んでもらえるので、はじめの一歩の設計に集中できる。介護施設の側も、「新しい人が来た」ではなく「一連の取り組みの中で来てくれた人」として迎えてくれるので、話が早いんです。
阿部
補助金も、機器も、通信環境も、業務改善も、グループとして一つの窓口でご相談いただけるのが私たちの形です。だからパートナーの皆さんにも、単独で施設さんに向き合うのではなくて、「グループ全体の座組みの中で自分たちの専門を発揮する」という組み方を選んでいただけると、届く速度が変わってきます。
青木
逆にBCCからパートナーの皆さんにお願いしていることは、施設さんの気持ちの部分を、一緒に見てくださること。仕組みの話だけを進めても、介護施設は動きません。逢坂さんのように、気持ちの動きを設計してくれる人が同じ動きの中にいることが、私たちの介護DXが成立している一番大きな理由だと思っています。結節点が生きるのは、専門を持った仲間が増えたときだと、実感しています。

エクセルシオール秦野は、全床導入へ向けた検討や、法人内の他拠点にも介護DXの意識が広がっています。動きの源には、機器の性能もあれば、補助金の獲得もあります。ただ、それだけでは、介護施設のスタッフの気持ちは動きません。仕組みと気持ちの「あいだ」を、誰かが設計する必要があります。介護DXが定着するかどうかは、その設計の質にかかっています。